無線従事者への道:第1級アマチュア無線技士


[1アマ免許証の画像] 筆者の1アマ免許証。(悪用防止のため一部伏せております。)


意義

無線従事者免許のアマチュア無線技士の資格は4級から1級までの4階級に分かれているが、最高の資格がこれである。 操作範囲は「アマチュア無線の無線設備の操作」と規定されている。「最高資格なのにこれだけかよ!」というツッコミも予想されるが、 早い話2級以下の資格にはなんだかの制限が付け加わるのに対し、1級には制限がない。だから、こんな単純な説明となるのだ。 もちろん、アマチュア局が使用できる周波数や出力は無限・無制限でなく、規定があるのだが、その規定の範囲ならばそれなりの環境(ご近所に妨害を及ぼさないこと)が整えば自分で開局でき操作できることになる。現実的にはHF帯だと1kWまで許可される。もっとも、開局にかかる手続きはかなり面倒になるが、従事者免許の資格上は制限がない。 自分で大電力局が開局できなくても、よその局について、その免許人である個人もしくは社団局の構成員同伴にてその局を操作するいわゆる「ゲストオペ」が、その局の免許の範囲で可能だ。 自分が2アマ以下ならゲストオペできる局の操作範囲かつ自分の従事者免許の操作範囲しか操作できないが、自分が1アマなら相手の条件次第で1kWだろうとそのまま操作可能なのだ。いま自分が1kW出せる環境になくても、取りたいうちに取るのが吉なのだ。

挑戦にあたり

1アマ取得にあたって、何が最大の難関となるかは人それぞれだと思う。筆者の場合、第1級陸上無線技術士(1陸技)の資格を目指しており(のちに取得)、もともと4アマとして細々とハムをやってきた自分として、「陸技のためにせっかく無線の勉強をするんだからついでに」、「アマチュア無線における実践を通して職業無線の知識を身につける」という意味合いで、挑戦することにしてしまった。2004年6月、第1級陸上特殊無線技士の国家試験を受験し、合格を確信した瞬間決めた。そういうわけで、ある程度無線工学や法規の下地はあったので、電気通信術が最大の難関となった。ということで、本受験記は8割方電気通信術の訓練記になってしまうが、ご理解いただきたい。

なお、以下本文中における電気通信術に関する記述はあくまで当時のものであり、2005年10月1日付けの改正によって成り立たなくなる事実があるのでご注意いただきたい。

モールスの訓練1…玉砕

ということで、モールス受信の訓練をすることになるが、最初から最後まで「あくまで耳で覚える」ということを守った。 訓練にあたってまずお世話になったのは、連れ(といってもほとんどペーパーハム)に薦められて知ったJARL A1 CLUBなるサイトだ。 このサイトには、トレーニング用の音がMIDIで公開されているが、ここで「聞く」習慣をつけたのが正解だった。 教科書によく、表の形式で点と線で示してあるのを見るが、これを目で見るだけでは聞きとれるようにはならないのだそうで、「間違った」覚え方で時間を浪費せずにすんだことになる。 このサイトで、Zまでひととおり聞けるようになれば、3アマは大丈夫でないかと思う。本気を出せば半月強でいけるだろう。しかし、ここからが長い。次々に符号が流れるのを、頭が処理できないのだ。反射的に文字が浮かばないといけないのだ。そこで、パソコン用の練習ソフトを探すわけだが、あいにくWindows用しか見つからない。筆者が普段使っているパソコンはMacであるが、まともな練習ソフトがないのだ。仕方なく、脇によけてあるWindows機を立ち上げる。ここで、普通の人はこまめに速さを変えたりネタを変えたりするのだろうが、筆者はあらかじめ「収録」をし、携帯用音楽プレーヤで繰り返し再生することとした。これなら、訓練だけのためにPCを起動する手間が少なくなる。早い話、PCのスピーカから出る音をマイクで収録すればいいのだ。音質は気にしない、というか、あまりに「いい音」でも、本番の試験場の環境は必ずしもいいとは限らないし。とりあえず、AからZまでの連続、つまりは「耳慣らし」(これは別に市販のCDの音でもよい。)を本番と同じ速さで聞く訓練をし、それと並行するような形で適当なネタを聞くのだ。ネタとしては、JM4SMRさんのページが、最後まで役に立った。ここでまず、短い単語のネタを入手、練習ソフトにぶちこむ。このとき、2アマ用の速さと、1アマ用の速さの両方を作っておく。2アマはPARISで50程度、1アマは70程度にする。微妙に市販の1アマCDより早い気がするが、それでいいのだ。これらを通勤時、あるいは休日に出かけるときにいっつも聞き込む。昼休みも聞き込む。この習慣をつければ、2アマ用の速さは、2か月もすれば本番と同じ形式の書き取りがぎりぎりできるようになるだろう。しかし、ここからが、さらに長い。このころ、だめもとで出願した1アマを受験するのだが、結果玉砕。あまりに脱字しすぎなのだ。2アマに出願しておけばよかったと思いつつも、もともと予定があって出願できなかった。しかし、本番の、今まで聞く機会のなかったなんともいえない矩形波の音は耳に残った。

モールスの訓練2…リベンジ

さて、次の試験まで4か月あるわけで、現代の技術を駆使することを考える。2アマは、「点と線がどの順でいくつあったか」と意識しながら聞き取っても大丈夫かもしれないが、1アマはこれではダメなのだ。EだってCだって、それぞれひとつの音のパターンとして認識できないといけない。そこで、1文字ずつ、本番の速さでの符号と正解の文字とを収録したファイルを26個作り、携帯用音楽プレーヤにぶち込み通勤時などに聞きまくった。ここで要点として、「トツー、A」ではなく、「トツー、AL-FAH」のように、答えの字を通話表で吹き込んだ。こうすれば、モールス符号だけでなく通話表の学習にもなり、一石二鳥だ。実際、自分が上級ハムの資格を取って、電信をやるかどうかはわからない。しかし、通話表はハムに絶対必要であり、日常生活でも知っていると便利だ。おのずと、モチベーションが上がる。本番2か月くらい前だろうか、書き取り練習を始めるが、脱字も誤字も多い。しかし、昼休みの職場の机とか、公共図書館の勉強室、あるいは自宅で練習をしているうちに、誤字を少しずつ減らすように心がける。よく言われる、わからない字は飛ばせ、である。こうして、なんとか、80点を超えるというか減点が20点以内で収まるようになってきた。JM4SMRさんのページは、1週間に1つの割合で新しい模擬試験のネタが追加されており、かなりの蓄積がある。たっぷり使用させていただいた。市販のCDで模擬試験をするようになったのは、本番1週間前だ。そして、2004年12月5日、本番の試験場にて、上記のCDに1つだけやり残した問題をやる。頑張れば大丈夫だ。そしていざ本番。いくら練習を重ねてきても、4か月に1度、たった3分しかない本番となると、言葉にならない緊張をする。字はかなり引きつったはずだ。しかし、YOKOHAMAとかHACHIJO ISLANDのような日本の地名に助けられ、ふっきれる。自己採点できないので、年末に合格の通知が来るまで安心できなかったが、わからない単語の部分が誤字でなければ合格だろうという感触だ。点数は開示請求していないが。モールス受信のレベルを1アマレベルにするには、思い立ってから直後1回は不合格になる覚悟で臨むべきだろう。

なお、1週間後に滑り止めで受験した2アマは、余裕で電気通信術の書きとりができた。1アマよりもずっときれいな字で書けた。合格を確信した。

学科の学習

一方、学科試験対策について。 電機大から出ている吉川氏の本で工学・法規は合格レベルになるだろう。が、陸技を目指しているのなら野口OMの工学の本がおすすめ。みっちり理解できる。 なお、難易度の差がまったくないとはいわないが、2アマで楽に合格点が取れるなら1アマで合格点が取れる可能性はかなり高い。2アマの過去問をいくつやっても合格点が取れるのに1アマは全然ダメ、という微妙なスキルを持っているような人がいたとすれば、それはそれですごいと思う。1アマは出題されるアンテナとか半導体などの種類などがやや難しいものになるくらいであり、問題数を抜きにすれば明確な違いはなく、勉強する内容は同じだ。 2005年12月の試験からは、電気通信術のハードルもぐっと下がり、レベルが統一されるので、1アマと2アマは互いに滑り止めだと認識してよい。

合格してから

結果、2004年12月28日に1アマ及び2アマ合格の通知を受け取り、翌日1アマの免許を申請し、何とも言えぬ気持ちで年を越し、1月15日に免許証を手にすることができた。パソコンで印刷されたような真っ白い免許証。でも、半年越しで乗り越えた難関。自分が手にしてしまったことが信じられなかった。3分180字という電気通信術の試験を突破できたわけだが、これはある意味スポーツの記録として大切にしたい。しかし、まだ1アマを取得していない人が2分50字の試験による1アマを取得する価値がなくなるかといえばそうでない。最高資格であることには変わりないのだから。むしろ、3アマ以下の人は、あえて2アマだけを目指す理由がなくなるのだから、1アマのことだけを考え、2アマは滑り止めと考えてよい。(1アマがオーバースペックな人にとっては、逆も成り立つ。)ただ、1分あたり25字というのは、かなり遅い。速い受信に慣れた人は、ある程度のリハビリをするのがいいかもしれない。

さて、免許証を手にしたあと、HF機を購入したわけだが、アンテナの設置方法や都市雑音に悩みまくりである。こういうことで悩んでこそアマチュアだと思う。自分の環境について解決ができるのは、最後は自分しかいない。試験で学んだことが必ずしも役に立つわけでないが、読者の方々には、より深いアマチュア業務を探求するために、ぜひ上級を目指していただきたい。

教材

「第1級ハム教室」、吉川忠久著、東京電機大学出版局
とりあえずこれ1冊あれば学科試験で合格点は取れる。
「第1級・第2級アマチュア無線技士国家試験用 改訂新版 解説・無線工学」、野口幸雄著、CQ出版社
過去問の工学を完璧に理解するのにはこれが必要十分。1アマの学習を通じ1陸技受験用の知識をつけるのにも役だった。これとネット上にある過去問さえあれば別に問題集はなくてもいいと思う。
JARL A1 Clubモールス通信への誘い
このサイトを見たおかげで、点と線を目で見るという悪い覚え方をせず、耳で1文字ずつ覚えることができた。2分50字を目指すならこのサイトだけでも十分かも。 また、ここに掲載されていた単語リストを下記のパソコンソフトにて符号化し、単語レベルでの学習に役立った。
CWTW
1文字ずつでなく、連続した文字を取れるようになるため、上記のサイトから取得したネタを2アマの速度→1アマの速度の順で訓練。 主に、実戦形式の訓練でなく、短い単語だけの訓練に使用した。
cw2wav(TQTのページ
符号化したデータを音声ファイルとして書き出せるWindows専用ソフト。これで書き出した各文字の符号と自分でしゃべったフォネティクスコードをくっつけた26個のファイルを作り、携帯用音楽プレーヤでランダム再生し、符号と通話表の学習をした。
JM4SMRさんのWebサイト
これなしでは合格できなかっただろう。試験のスピードによる実戦練習のため、たくさんの問題を使わせていただいた。
「CQ MORSE CD 4 1級国試編」、CQ出版社
AからZまでの「耳慣らし」を除けば、試験直前のみ普通文のトラックを使用。 JM4SMRさんのネタで合格レベルになるまでは、問題を覚えてしまわないようにあえて使用せず。

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